土壌汚染核種の作物の可食部への移行係数

WINEPブログ 土壌汚染核種の作物の可食部への移行係数を用いて、次作の汚染度をシミュレーションする方法について

土壌汚染核種の作物の可食部への移行係数を用いて、次作の汚染度をシミュレーションする方法について   


1.野菜について  
  
         

  放射線核種の移行係数(TF: transfer factor )を以下のように定義して、
  

       

  農作物(可食部)中の放射性核種濃度

   (Bq/kg乾物重)

  TF=――――――――――――――――――   

  土壌注の放射性核種濃度(Bq/kg乾燥重) 

      
  その値を各種の放射性核種のグラフにしたものが下図です。

             

 
      
      

 

       
  出典:内田滋夫「水・土壌・農作物と放射能放射線科学 51,no6,2008.


  例えば、この図で一番上の欄のセシウム(Cs-137)のみを見てください。

  あくまで表からの読みとりですから、実際の厳密な数字ではありませんが、ホウレンソウ(0.18)、白菜(0.17)、きゃべつ(0.16)、小松菜(0.061)、レタス(0.060)、 大根(0.025)、カブ(0.021)、ニンジン(0.015)の順位で移行係数が低下しているように読みとれます。
   
  この移行係数を用いて今回の福島原発から漏出し続けているセシウム−137(Cs137) が、農地土壌に降下して、この農地に、もし野菜を作付けした場合、その野菜の収穫物の可食部がどれくらい汚染されるかを、大略シミュレーションすることができます。

     


  そしてその計算結果の数値が野菜の放射能の人体摂取許容基準を超えるようだと、その野菜は出荷停止になる運命にあります。ですから、そういう可能性のある、強度に放射能汚染された土壌は、あらかじめファイトレメデイエーション用のヒマワリなどを植えて土壌汚染の放射能を積極的に収奪するか、お金があれば一気に15センチぐらいの表土をはがして客土をするかした方がよいです。セシウムはほとんどが表土の20センチ以内にに留まっていますから。(客土する場合は剥がした土をどこに保管すべきかの問題が別途生じるわけですが)。

         

  しかし現状では、福島原発の強い放射能能漏出がまだ、あてもなく続いているので、実行には様子を見た方がよいでしょう。
       
 
 
2.穀類について 

上の図は、同じ出典である。

あくまで図からの読みとりですが青い○で示されたコムギやオオムギセシウム(Cs)のTF値が約0.001であり、赤い○で示された玄米は0.0015ぐらいである(青い値は外国の穀物の分析値である)。つまり、根菜よりも一桁低いことがわかります。
  
       
以上実際の厳密な数値は著者である内田滋夫氏が持っているはずです。 
  

(森敏)


追記1:以下に先日の新聞発表のデータを用いて数値を算出してみた。これはあくまで例示(ケースワーク)と考えてもらいたい。
  
計算の結果は、野菜の規制値が500ベクレル/kgだとすると、下記の表の南相馬市のニンジン、いわき市の カブ、大根、ニンジンだけが、作付け可能となる計算になる。
    
(専門的になるが、この数値はセシウム−137(半減期約30年)だけで計算したもので、今回の福島原発降下物には実はセシウム−134(半減期約2年)がセシウム−137と同じ放射線量生じていると報告されている。当然これも考慮に入れなければならないのだが、ここでは計算に入れていない。実際には、これまではまだ発表されていないストロンチウム90の測定値も入れるべきだろう)

表。
各市の土壌の総セシウム量から、作物ごとの移行係数を使って、次作の可食部の放射能値を推定した。
    
数字の単位はBq/kgです。
根拠データは、あくまで新聞報道です。
また正確な、数値が文科省農水省から確認されましたら、
訂正したデータをお示しいたします。
  

南相馬市セシウム値 24900
ホウレンソウ 4482
白菜 4233
キャベツ 3984
小松菜 1519
レタス 1494
カブ 622
大根 523
人参 374

いわき市セシウム値 17500
ホウレンソウ 3150
白菜 2975
キャベツ 2800
小松菜 1068
レタス 1050
カブ 438
大根 368
人参 263

川俣町 総セシウム値 138000
ホウレンソウ 24840
白菜 23460
キャベツ 22080
小松菜 8418
レタス 8280
カブ 3450
大根 2898
人参 2070

田村市セシウム値 50000
ホウレンソウ 9000
白菜 8500
キャベツ 8000
小松菜 3050
レタス 3000
カブ 1250
大根 1050
人参 750

小野町 総セシウム値 73800
ホウレンソウ 13284
白菜 12546
キャベツ 11808
小松菜 4502
レタス 4428
カブ 1845
大根 1550
人参 1107
  

    
追記2:以下の記事にあるように、上記のTF(Transfer factor)値を使って、作付けの可否の予測をするために、やっと農水省が、福島原発30キロ県外の、150地点の土壌汚染調査に着手することにしたようである。ぜひ全力投球で頑張ってもらいたい。それにしても、この方針では、30キロ圏内は農作物を作るな!ということなのだろう。福島県中心の農家にとっては地震津波放射能被ばく・農耕否定と悲劇の四重奏だ!
 
土壌150地点で調査へ 福島第一原発30キロ圏内除く
2011年3月30日19時35分  

農林水産省は30日、福島第一原発から漏れた放射性物質による土壌汚染の影響調査について、4月中旬までに原発周辺の150地点で実施する方針を明らかにした。作付けの時期を前に、農家に対して農地の安全性の基準を示す必要があると判断した。まずは田植えの時期に間に合うように水田を中心に調査する。

 福島第一原発周辺の150地点から土を採取し、半減期の長い放射性セシウムの濃度を分析する方向で、原発周辺の県と調整を始めた。

 調査地点は福島第一原発からの距離や、文部科学省が観測している大気中の放射線量などをもとに決める。避難や屋内退避の指示が出ている同原発から30キロ圏内を除き、その周辺から選ぶ。田植え前の代かきでかき回す範囲にあたる地表面から15センチの土を採取するなど、調査方法も統一する。

 有害な農作物の生育を防ぐための現行法(農用地土壌汚染防止法)は放射性物質を対象外としているため、国が自治体に調査を強制することはできない。今回の調査は農水省が技術指導する形で実施し、結果を対象の自治体に伝える。

 作付けの可否の判断にあたっては、農作物が土中の放射性物質をどの程度吸収するかについて分析する必要がある。農水省はこの分野の国内外の過去の研究成果を洗い出し、稲などの農作物が放射性物質を吸収する程度を示す「移行係数」を算出する作業も進めている。

 土壌中の放射性物質の濃度にこの係数を乗じた値が、出荷停止につながる暫定基準値を上回るかどうかが作付けの可否の判断材料になる見通し。算出された移行係数は、農水省が4月中旬までに公表する方向で検討している。

 福島第一原発からの放射性物質の放出は長期化する可能性もあり、農水省は必要に応じて土壌調査を続ける方針。

 福島県は25日、土壌汚染の恐れがあるとして、県内の全農家に農作業を当面延期するよう要請。国と協力して土壌の分析を進め、農地の安全性を判断した上で作付けの指示を出すことにしている。






【2011/03/28 16:49】 | 未分類 | トラックバック(0) | コメント(2)